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教育対話主事通信「いろとりどり」2023.4月号

2023.03.31

対話主事通信「いろとりどり」2023.4月月号

 

 このたよりがみなさんのお手元に届くころ、桜の花は咲きだしているでしょうか。それともつぼみが大きく膨らんで開花の時を今か今かと待っているときでしょうか。今回は、桜にまつわるお話。

 さて、突然ですが、質問です。今、あなたの目の前にそれはそれは美しい桜色に染まった草木染の布があったとして、その色は桜から取り出したものだと説明されたら、桜のどの部分から取り出した色だとあなたは考えますか? 

 ひと昔前のことですが、2010年に浜松市美術館で「しむらの色―志村ふくみ・洋子 染と織の世界―」と題した企画展が行われました。私も見に行きましたが、色鮮やかな、そして優しくもあり、力強さもある草木染の布の風合いに心奪われたことを覚えています。志村ふくみさんは、1924年生まれの染色家で、植物由来の染料と紬織の研究を進め、草木染の糸を使った紬織の着物作家として活躍されてきました。自然の色彩を生かした染織にこだわった独自の色彩や表現力は、とても魅力的で高い評価を得ています。重要無形文化財保持者(人間国宝)でもあります。随筆家として「一色一生」「色を奏でる」などの著書もあります。

 なぜ、この企画展を見に行く気になったかというと、当時受け持っていた中学生たちが国語の授業で習っていた教材に、この志村ふくみさんのことが取り上げられていたからです。その教材とは、詩人大岡信さんが書かれたエッセイ「言葉の力」、光村図書中学校国語の教科書に長いこと取り上げられてきた教材なので、読んだ記憶のある方もいらっしゃるかもしれませんね。

 ここで最初の質問に戻りますが、私だったら、何の疑いもなく満開の桜の花びらから取り出したと考えてしまうと思います。実は、大岡信さんもそうだったようで、志村ふくみさんに「なんとも美しい桜色に染まった糸で織った着物」を見せてもらった折に、「すぐに桜の花びらを煮詰めて色を取り出したものだろうと思った」そうです。ところが、実際はそうではなかった!ということがエッセイ「言葉の力」には書かれています。

 さあ、もう一度考えてみてください。では、何から取り出したのでしょう?

 志村さんが大岡さんに語った話のおおよその内容は、「この美しい桜色は、黒っぽいごつごつした桜の皮から取り出す。一年中どの季節でもとれるわけではない。桜の花が咲く直前のころ、山の桜の皮をもらってきて染めると、こんな上気したようなえもいわれぬ色が取り出せる」ということでした。

 桜の花びらからではなく、黒い皮から美しい桜色が取り出せる…思いもよらない答えで、これを読んだ時「へえ、そうなんだあ!」と、とてもびっくりした記憶が私には残っています。みなさんは、どうでしたか?

 大岡さんはこの話から「春先、間もなく花となって咲き出でようとしている桜の木が、花びらだけでなく、木全体で懸命になって最上のピンクの色になろうとしている姿」を思い浮かべ、「木全体の一刻も休むことのない活動の精髄が、春という時節に桜の花びらという一つの現象になるにすぎないのだ」と考えを進めていきます。

 志村さん自身は、著書「一色一生」の中で、「私は今まで、二十数年あまり、さまざまの植物の花、実、幹、根を染めてきました。ある時、私は、それらの植物が染まる色は、単なる色ではなく、色の背後にある植物の生命が色をとおして映し出されているのではないかと思うようになりました。それは植物自身が身を以て語っているものでした。こちら側にそれを受け止めて活かす素地がなければ、色は命を失うのです。」と、語っていらっしゃいます。

 4月といえば入学式。入学式といえば、満開の桜。そんなイメージがあります。美しく咲き誇る花びらに心躍らせるときに、その花びらを咲かせている枝や幹にも視線を向けてみたら、これまでとは違った何かを感じられるかもしれませんね。

 今回、これを書くにあたって家の本棚を探してみたら、志村ふくみさんの文庫本「色を奏でる」が見つかりました。そして、同時に、「母と子のたのしい草木ぞめ」という本も見つけました。そうそう、かなり昔にやってみたいなと思って買ったなあと思い出しました。

さてさて…。

全家研ポピー浜松支部 教育対話主事 鈴木育代

 

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