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教育対話主事通信「いろとりどり」2022.9月号

2022.08.29

対話主事通信「いろとりどり」2022.9月号

 

ある幼稚園の園庭の片隅に小さな畑がありました。子どもたちと先生がミニトマトを大切に育てていました。ある日、水やりをしようとダッシュして畑に走っていった4歳の男の子、近くの地面に何かを見つけて立ち止まりました。じっと見つめているのは、くちゅっとつぶれたミニトマト。先生は(ああっ、鳥に食べられちゃったな。いい感じに赤くなって収穫できたはずなのに。この子も悲しがっているんだろうな。ほんとに困った鳥だこと。)と思いました。ところが、男の子の顔をのぞき込むと、その子はにっこりしてこう言いました。

「鳥さんが食べたトマト。鳥さん、トマト、大好き。」 先生はハッとしました。この子は鳥を、大切なミニトマトを勝手に食べてしまった悪いやつだとはこれっぽっちも思っていなかったのです。そして、鳥の身になって目の前の出来事をとらえていたのです。勝手な思い込みや自分の都合でしかものごとを見ていなかったことに先生自身が気づかされた[子どものひと言]でした。

 

 お父さんとふたりで公園に遊びに行った5歳の男の子。砂場で山を作って、川を作って、山から水を流して、川に砂でダムを作って水をせき止めて…。(子どもはこうやっていろいろ作るのが好きなんだな。自分もそうだったな。)お父さんは自分の子どものころのことを思い出していました。男の子はダムをどんどん大きくして水をいっぱいためました。そして、今度はバケツいっぱいの水を山から一気にドバっと流しました。大量の水の勢いで砂のダムはバシャ―ンと崩壊。砂と水がまわりに飛び散りました。男の子はケタケタ笑いながらこう言いました。

「お水が噴火してるっ!」 お水は火じゃないから噴火とは言わないんだよ…と口にしそうになったお父さん。ハッとして言葉を飲み込みました。砂と水が飛び散った様子は、まさにマグマの噴火のようだったのです。考えてみれば、この子はどこで覚えたのか「噴火」という言葉を知っている。噴火がどういうものかも知っている。そして、それが今のダム崩壊の様子と似ていると一瞬のうちに気づいている。我が子ながら、もしかしたら今のはすごい表現なんじゃないか? 思い直して、

「ほんとだね。噴火したね。」と頭をなでてやりました。そしてもうひとつ、こんなことを思っていました。(そういえば自分も子どものとき、何かを作り上げるだけじゃなくて作り上げたものをこわすところまでを楽しんでいたなあ。)忘れていたことを思い出させてくれた[子どものひと言]でした。

 

 ある幼稚園で、土山の頂上から水を流して遊んでいる最中に3歳の女の子が近くにいた担任の先生に向かって、

「〇〇センセイ、ここすべるから気をつけてね。」 他人を気遣う優しさに先生の方がキュンとさせられた[子どものひと言]でした。

 

 ある夏の日、公園で鬼ごっこをして走り回っていた5歳の女の子たち、お母さんたちのところに帰ってくると、

「あつーい。」「あせ、いっぱい。」「ハンカチでふこうっと。」「ハンカチ、ポケットに入っているかな。」

汗をふき終わると、一人が、丸めたハンカチを胸に入れて服の上から手のひらでそっと押さえて、ひと言、

「これ、いのち…」 お母さんたち、ハッとした様子で互いに顔を見つめ合って思わずにっこり。お母さんたちをキュンとさせた[子どものひと言]でした。

 

 保育園のプールで遊んでいた5歳の男の子。たまたま通りかかったおじさん(実は参観に来ていた近くの小学校の校長先生)に向かって、

「見てーっ。」 ざぶんと顔を水につけたあと、顔を上げてもう一度おじさんを見て、

「オレ、すごかった?」「すごかったよ。」「おじさん、もぐれる?」「うーん、どうかなあ?」「やれば、できる!」

 しばらくしてプールから上がると、男の子はさっきのおじさんを見つけてかけ寄り、おじさんの前に立って顔をジーッと見つめ、やがて手のひらを上にして右手をすっとおじさんの前に差し出してにっこりひと言、

「お手。」 校長先生をもたじたじにさせた[子どものひと言]でした。

 

小さな子どもたちの何げない言葉に大人がハッとしたり、キュンとしたり…そんなひと言を集めてみました。

豊かな発想、思いやり、笑いのセンス、子どもって偉大です。無限の可能性を感じます。言ってみれば、子どもは可能性のかたまりです。この芽を大人がつぶしてしまわないよう大切に育てていきたいものですね。

全家研ポピー浜松支部 教育対話主事 鈴木育代

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